気まぐれエッセイ@メキシコ

不定期に適当な文章をつづっていきます(現在バヨ中心)

松脂の粉は幸運の粉?

 日本滞在中、友人宅の近所の本屋さんで、こんなタイトルが目につきました。

 

 手に取ってだいぶ迷ったけど、最近の文庫って高い……。で、このときは見送ったんですが、帰国のとき成田空港で、やっぱもう一冊本が欲しいかも、と空港内の本屋さんを物色してたら、この本に再会。他に適当な本も見つからなかったので、これはご縁かもと購入しました(消費税分安かったしw)。

 

 著者のブレンダン・スロウカムは黒人系米国人で、本業バイオリニスト、この本がデビュー作だそうです。検索したら、作者のインタビュー動画がたくさん出てきますが、こちらでご本人の演奏が少しだけ聞けました。1分過ぎくらいから。


www.youtube.com

 これは自撮りだから鏡に映してるんでしょうか? 左右逆ですが、他の動画では左利きというわけではなさそうで、楽器も普通に左に構えて弾いてるようです。左腕の角度も、なんだか不自然な気がしますが、写りの問題かなあ。演奏はとても柔らかですてきです。

 

 小説の主人公は著者と大いにかぶる黒人バイオリニスト。有名になってきたところで、チャイコフスキーコンクールに参加しようとしていたある日、ホテルから自宅に戻ってバイオリンケースを開けてみたら、楽器が消えていた! というところから話は始まります。代わりに入っていたのは脅迫状。バイオリンを返してほしくば500万ドル払え、と。

 しかし話の主眼は犯人捜しではなく、主人公が家族の理解を得られないまま、如何にしてバイオリンの道を進んだか、クラシック音楽界で黒人がどれほど差別されるか、というところにあります。

 家族で唯一の理解者だった祖母は、その高祖父(ひいひいおじいさん)が奴隷時代にバイオリンを弾いていたこと、そのバイオリンは主人のものだったが、奴隷から解放されるときに主人がプレゼントしてくれたこと、を語り、主人公は屋根裏からそのバイオリンを見つけ出しますが、実はそれが本物のストラディバリウスだった、という(バイオリンやる人ならだれでも?夢に見るような)ベタなシチュエーションではありますが……。そのストラディバリウス(時価一千万ドル超え)が盗まれたわけです。

 デビュー作とは思えないうまさで、まあ気になるところがないでもないですが、500ページ超えを一気読みさせる面白さは充分でした。

 

 ところで、その祖母の高祖父(じいじ)のバイオリンが何十年も放置されていた屋根裏からようやく発掘されたシーンで、バイオリンに関してこんな記述がありました。

「記憶にあるとおりだ」祖母は言った。「白いものが一面についていて。この白いものが幸運を呼ぶんだってじいじは言ってたね。”幸運の粉”って呼んでたっけ」祖母は目をみはり、ひとりくすくす笑った。「すっかり忘れていたけど」(p.138)

 見つかったときには、すぐに弾ける状態ではなかった(テールピースにひび、ペグは二つ欠けていて、駒は歪み、魂柱は倒れて😱中でからから言ってた)バイオリンを、主人公はまず近くの店に持ち込んで修理を頼みます(黒人だからという理由でひどい対応をされるのもお約束)。そのときの松脂の状態は、

何十年分の白カビと積もり積もった松脂のせいで、楽器全体が白い膜に覆われたようになっていた。こすってみたら、指が真っ黒になったが、それでもまだこびりついた松脂が残っていた。(p.127)

 という感じで、修理してもらったあとも、この松脂の粉はそのまま。当時まだ学生だった主人公は、この古い楽器をそのまま使い続けます。でも少し名前が知られてきて、もう少しいい楽器に替えたら、と指導教官に勧められ、でもこれはじいじの楽器なので手放せない、ということでダメもとで修理を頼んだら、あらびっくりモノホンのストラドじゃないか!という展開なわけですが。

 だから、主人公も周囲も、それがストラドだと何年も気付かない伏線として、松脂びっしりという設定にしたのかなとも思いますが、でもメキシコで実際、プロのバイオリニストでもけっこう松脂つけっぱなしの楽器を見たことがあり、今やってるオケでも真っ白の楽器使ってる子もいるので、「幸運の粉」って本気で思ってる人、本当にいるんかもな、と。

 

 それでちょっと検索してみたところ、こんなサイトが見つかりました。

 画像クリックで、サイトに跳びます。

 

「松脂の粉(の蓄積)は本当にサウンドをよくするのか?」という質問(しかもわずか2年前)。まあ答はすべてノーなのが救いですが、それでもやっぱりそういう言い伝え?みたいなの、あるんだなあ。

 なかには「松脂がいっぱいついてると、練習したなと先生に思われるから好都合」なんてアンサーもありますがw そこにさらに「指板にまで証拠が残って、なんでそんなとこで弾いてるんだと怒られる可能性もある」なんてやり取りまでw

 真面目な話をすれば、松脂が積もっても音に影響はほとんどありませんが(あると言う人もいるし、厳密にはあるんだろうけど)、ニスを傷めるので、貯め込まないほうがいいに決まってます。特に弦にこびりつくのは音に影響すると思うので、私は毎回きっちり拭き取ってます(というか日本でならこんなの常識? でもメキシコのオケでは誰もやってない気がする)。

 今回のリンさん購入した工房さんでも、楽器用のクロスを一枚おまけにつけてくださいましたが、先生がセーム革もいいよとおっしゃってたので、それも買いました。クロスは弦を拭く用、セーム革は楽器本体を拭く用、と使い分けてます。スズちゃんは、スーパーで買ってきた柔らかい布(ホントは雑巾)で弦も本体も拭いてましたけどね。

 

 ところで、日本に行くとき、バヨは持っていかないことにして、でも肩当ては自分の持っていくべきよね、とぎりぎりで思いついてそれだけスーツケースに放り込んでいったんですが、松脂はまったく考えてなくて。工房さんと先生のところでは、先生の松脂を借りて使いましたが、実家や友人宅ではそういうわけにいかないので、ベルナルデルをもう一個買い足しました。ま、消耗品だし。

 で、届いたのは確かにベルナルデルのいつもの松脂なんですが、それを包んでる布(底面で貼りついてる)が……薄い。

(これは2個目に買ったもの)

 ベルナルデル、夏場に強いというレビューを読んだので、ずっと愛用してますが、最初に買ったのは数年使って、半分くらいになってたのを一年ほど前に落として割ってしまい、買い直しました。だからまだわりと新しいのが家にあったんですけどね。

 今回買った三つめのは、明らかにこの布が薄いんです。経費削減かなあ……。まあ袋にちゃんと入っていればそれで充分保護されてるし、布が分厚くても落とせば割れるんだし、いいんですけどね。

 

 松脂に関するあれこれでした。レッスンもオケもまだ冬休みなので(いつ始まるのかなあ?)、そのあいだにもう一個書きたい記事あります。暇を見て書いておこうと思います。