気まぐれエッセイ@メキシコ

不定期に適当な文章をつづっていきます(現在バヨ中心)

おニューバヨはフランスのおばあさま

 長らくご無沙汰しました。一ヶ月近い日本滞在と、帰国後も時差ボケやら何やらであっという間に一週間過ぎちゃって。

 しかし今回の旅の三大目標のひとつ、新しいバヨゲットはちゃんと果たしてきました(他のふたつ???も)。いっぱいいっぱいお世話になったk先生、バヨ選定とその後の合奏に何度も付き合ってくれた友人D、出資してくれた両親、購入に積極的に賛成してくれたダンナ、いい子で留守番してくれたうちの子たちに、感謝感謝です。

 

 前回記事で、私の出発当日にダンナが出張から帰宅できるのか!?というところで終わってましたが、無事間に合いました。が、私を空港へ送って、もう待合室に入るね、とお別れして私ひとり荷物検査を通って搭乗を待っていたとき、家についたダンナからメッセージがあり、「12月4日(月)に退職が決まった」とまたも爆弾発言がw いや、いいけどねw ダンナは来年4月で65歳になるので、会社の条件次第(しょっちゅう変わる)で退職できるかも? ということで9月くらいから志願はしていたんですけどね。その後まったく音沙汰なくて、ダメかなあ、と言ってたのに、いきなり。ま、メキシコだし。

 

 といういつものサプライズ(それはサプライズというのか?)はあったけど、とにかく日本に到着した私。k先生のところにお邪魔して、名古屋の工房さんでバヨと弓を選ばせていただきました。

 行ってみたら、私がお伝えした予算と音色の好み(好きな演奏家3人と好きな曲3つもしくは好きな作曲家3人教えて、と先生に言われて)に合わせて選んでくださったバヨが9挺、弓が11本(本当は12本だったそうですが、先生があらかじめチェックして、1本はちょっとバランス悪いということで、はじいてくださってた)。午後2時から予約を入れてて、終わったのはなんと8時。6時間かかりました。

 日本の大学時代の友人Dも、私に釣られて?バヨを始めていたので、日本に行くちょっと前に、今回バヨを買うつもり~という話をしていて、彼女もいずれいい楽器欲しくなるかもだし、いろんな楽器を見ておくのもいい経験だし、名古屋まで来ない?と気軽に誘ったら、最初は、遠くて無理~と言ってましたが、一時間ちょっとで行けるなあ、と言い出し、最終的には駆けつけてくれました。

 私、ホントにそんなに深く考えずに誘ったんですが、これが実はものすごく有難かったのです。まず、ン十年来の友人がいてくれるという心強さ。それから、Dが使ってるスズキバヨさんを持ってきてくれたこと*1。おかげで、私のと同じではないにしろ、かなり近いグレードの楽器と弾き比べることもできました。それから、Dも弾いてみてくれたおかげで、プロの先生が弾いたらどう聞えるかだけでなく、私レベル*2の人が弾いたときの音も客観的に聞くことができたこと。いやあ、持つべきは友!ってホントに実感しました。

 

 さて、まずは11本の弓を先生が、重いのから軽いの、というふうにざっと並べておいてくださったので、その真ん中辺のを使って、バヨを片端から試奏しました。これはなんか違うな、というのはどんどん外していき、残ったのをさらに比べて、4挺に絞りました(ここまでで3時間くらいだったかな)。それを、好きな順に並べて、と言われてソファに並べ、お値段と出自を開陳していただくことに。

  1. 今年(2023年)新作のドイツの楽器 予算-5万円
  2. 1901年のフランス楽器、レディースサイズ 予算±0円
  3. 1927年のドイツ楽器 予算+5万円
  4. 今年新作の中国系アメリカ人の楽器 予算-20万円

でした。4番目のはお安くてびっくりでしたが、まあ4番目だったし、やっぱいまいちかな、ということでまず外してもらい、残った3挺で悩む悩む。

 これがその3挺です。向かって左から、1番2番3番。弓はそれぞれに合うと思われるものを先生が選んでくれて置いてました。

 私としては1番のドイツ楽器がいちばん音として好きだったんですが、新作、それも生まれたてほやほやで、今後どう育つかが未知数、というのと、これだけ弦がTi(私がスズちゃんにも使ってるお気に入りの弦)だったんですよね。あとの2挺は無難にドミナント

 2番目のは、最初にパッと見たときすでに「小っちゃ!」とわかるくらい他より小さかった。いわゆるレディースサイズの7/8だそうです。手が小さくて小指が短い私には、音を取りやすいという利点がありますが、最初は指の間隔が違ってしまって音程取りにくかったです。慣れたら何とかなることだろうとは思いましたが、不安もありました。

 3番目は全体としていい音だったんですが、最初G線とD線が気難しくて、すっきりした音が出せませんでした。先生にその旨訴えたら、弓を替えてみて、と別の弓を渡され、幾本か試してみると、だいぶマシに。

 

 お手本演奏何時間もやってお疲れの先生が自宅(工房さんのすぐ上)に戻って休憩、私とDはお茶をいただきながら、バヨさまたちと対面中w 戻ってきた先生が撮ってくれた写真です。

 Dのスズキバヨさんを持ってきてもらってそれと弾き比べたり、先生の「家一軒買えるお値段」の楽器さまも弾かせていただいたりしながら、やっぱり1番か2番か、ということになり、3番の気難しいドイツ人おじいちゃんが脱落。

 ここでだいぶ迷いましたが、2番にTiを張っていただくことはできるでしょうか? 弦が違うと、厳密に比較できないし……。と先生を通じて工房さんにお願いしたら、快く承知してすぐに張り替えてくださり、その弦が馴染むまで、またがんがん弾きまくる先生。もう本当に、お疲れさまです&ありがとうございます🙇‍♀️

 

 そして結局、弦を同じにしてみたら、少し弱く感じていた2番も1番に負けないくらい張りのある、でも柔らかな音になったので、全員の意見一致で2番に決定。k先生も、これ欲しいくらいだわ~、とおっしゃってたので、遺言状に書いときますねと約束w

 そこから今度は弓の選定ですが、この時点でもう夜の7時回ってたし、けっこうすでに絞り込めていたので(先生がほぼやってくれたようなものですが)、そこから私が使いやすいと感じるものを……。最後の2本で迷ったんですが、1本は日本人製作者のもので、本来はもっと高いんだけど、スクリューの頭のところの貝がはめ込まれていないためにお安くなって私の予算範囲内になってるもの。

 もう1本はドイツ人の作ったものでした。本当はそれを聞く前からドイツ弓のほうにだいぶ心傾いてたんですが、ドイツと聞いて思い出したさっきの会話……。先生との雑談で、フランスの楽器にドイツの弓とかって、バヨとしてはありですか? と(訊いたのはDだったと記憶してるが)訊ねたら、先生が「いやあ、それはないね!」とおっしゃってたんですよね……。むむむ、じゃあこの弓ダメじゃん? と思ったんですが、先生が「あ、あれは冗談だから」とw なんだ~🤣

 というわけで、もうマジで8時だったので、さっさとドイツ弓に決めました。Christian Wankaという、ちょっとエキゾチックな名前の製作者さん。製作年は訊きそびれました。

 

 楽器のほうは、Siffrin Vallier(シフリン?・ヴァリエ)という人が作った楽器で、どういう人ですかとあとで訊ねたところ、元はクラリネット奏者だったけど、やがてディーラーに転向して、それからバイオリン製作に携わるようになって、ルーアンに引っ越してそこで作ったのがこの楽器だそうです。面白い経歴の人だなあ。*3

 ところで、7/8サイズというのは、あるとは聞いたことありましたが、実物は初めてでした。バヨは小さいころからやらないとプロにはなれない楽器なので、子供用に1/16、1/8、1/4、1/2、3/4とあり、大人用のフルサイズはよく4/4と表記されますが、このフルサイズより心持ち小さいのが、レディースサイズ(実際これを使うのは女性がほとんどらしい)。7/8ということになってますが、ボディサイズ*4を測ってみたところ、スズちゃんが356㎜、ヴァリエさんは349㎜で、計算するとぜんぜん7/8じゃない。でも3/4などというのも、ボディサイズだけでは3/4じゃなくて、たぶんその3乗の体積比なのかなあ? レディースサイズは3乗してもまだ7/8になりませんが、まあだいたいってことで。

 重さを比べてみたところ、スズちゃんは536g、ヴァリエさんは448gと、かなり違いました*5。ちなみにお値段は、ヴァリエさんはスズちゃんの8️⃣倍ちょっとです。

 

 スズちゃんとヴァリエさん。

 こうして並べただけでも、ヴァリエさんのほうが小さいの、わかります。

 スズちゃんは裏板や側板のメープルの木目が本当に美しいのですが、ヴァリエさんは割と地味。しかも、裏板が真ん中で継いである2枚板ではなく、1枚板です。122歳なので、全体にいくつも小さな傷があり、顎当ての金具の痕らしいところもあります。まあスズちゃんも、この写真ではけっこうピカピカと新品っぽく見えますが、お歳は55歳(それでもヴァリエさんに比べると、若ッ!)、私がつけちゃった傷もあり、よく見ると年齢なりではあります。

 

 肝心の音色ですが、家に帰ってスズちゃんと比べて録画してみたんですが、動画だとあまり違いが伝わらない……。Youtubeにもよく、100万と10万の(もしくは1万の)楽器の聞き比べ、なんてのがありますが、まあ違うっちゃあ違うかなあ……くらいですよね。これは録音機材を相当いいの使わないと、難しいんだろうと思います。

 が、弾いてみるとそりゃもうね、ぜんぜん違いますね。スズちゃんもそう悪くない、と思ってましたが、耳元でざらつくような音があります。ヴァリエさんは、音量ではスズちゃんよりおとなしめですが(サイズ的にその傾向は当然)、滑らかでふんわりと膨らむような音です。ヴァリエさんを買ってから、両親のマンションは防音かなりできてるというので、ほぼ毎日練習させてもらいましたが、不思議なことに、あまり疲れない。肩当てをk先生に調整してもらってぴったり当たるようになったのもあるかもしれませんが、スズちゃんで練習していたときは、10分15分ですぐ休憩して、という感じだったのに、ヴァリエさんだと、気付くと30分ぶっ続けで弾いてた、とか。これはやはり音色がいいので耳が疲れないということかも?

 

 家に帰って、最初にヴァリエさんを取り出して弾いてみたとき、ミミが数秒で走り寄ってきて、タンスの上に飛び乗りました。

 さあ、聞いてやるから弾いてみな!って顔?w

 

 そうそう、ケースももちろん新調です。これは前からネットでいろいろとレビューを見ていて、とにかく100gでも軽いカーボンのがいい、カーボンマックがいちばんかなあと思ってました*6。色はシルバーがよかったんですが、サイトの写真だと、青っぽく見えるのとピンクっぽく見えるのがあり、実物はどっち!? それで、次点のブルーをお願いしますと工房さんにお伝えしたんですが、シルバーと両方仕入れてくださって、実物を見ることができました。シルバーは青っぽくもなくピンクっぽくもないw、ごくごく正統派の美しい銀色だったので、そちらに。

 そして弓とケースには割引もしていただいて、予算ほぼぴったりに。お支払い方法が海外在住の私にはいろいろと制約があって手間取ったり、海外なんだから消費税は返してもらえるんじゃ?という話になって調べてもらったけど、入国スタンプ押してもらわなかったのでダメだったり、まあそんなこんなもありながら、とにかく気に入った楽器&弓&ケースが手に入りました。

 

 ヴァリエさんのサイズ感には、まだちょっと慣れないところもありますが、ほぼ毎日練習して、だいぶマシになったと思います。何と言っても小指が届きやすい。でもそう思って油断すると低くなりすぎるので、今までどおりに頑張ると、それでも届いてなかったのがちゃんと届くくらい、と思ったほうがいいようです。

 レッスンは年明けてからになるので、それまでにちゃんと弾けるよう練習を頑張らねば! 先生にお披露目する日が楽しみです。買いましたという報告と、その後友人たちと合奏した動画は送ってますが、動画では本当の音色はわかりませんしね。レディースサイズってことも言ってないので、びっくりされるかも? 

 

 小物についてですが、肩当ては自分のを持っていきました。日本で見てもらうために必要だと思って、それだけスーツケースに放り込んで。ヴァリエさんにつけようとしたら、幅ががばっがばで、穴二つ分縮めないと合わないくらいでした。縦横の比率もだいぶヴァリエさんは細身なのかも?

 で、いざ弾こうとして松脂がないッ!と気付き、名古屋にいるあいだは先生のを借りましたが、ベルナルデル、一個買い足しました。まあ消耗品だし……最近買ったばっかだったけどw

 それから工房さんで楽器用クロスを一枚サービスでつけていただきましたが、セーム革もいいよ、と先生のおすすめで、ネットで2枚セットのキョンセーム革も購入。さらに、メキシコの高温多湿が心配なので、大阪の友人に島村楽器店に連れていってもらったときにモイスレガート*7も購入。どのくらい効果あるでしょうか……。

 

 帰国の飛行機で、ケースが規定サイズはみ出してるから預けろと言われるとか、メキシコの税関で目をつけられて吹っ掛けられたりするかもとか、いろいろ心配もしましたが、そういうこともまったくなく、ノープロブレムで家まで無事に持ち帰ることができました。

 唯一の問題は、カーボンマックのケースって蓋がもっこりと盛り上がっているので、使ってる最中にちょっと楽器を置きたいとき、ケースの上に置く癖のある私としてはそれができなくなったのがネック。肩当てをつけた楽器をケースの中に寝かせて、万が一蓋がバタンと落ちたら、と思うと怖くて*8。もしくは、蓋が落ちないようつっかえ棒とかで工夫するかですね。今のところはケースの手前スペースに置いてますが、ちょっとぎりぎりで、それも怖いかも(猫たちがいるので)。しかしケース自体はとても軽くて、運搬には大変使いやすいです。

 

 最後に、ヴァリエさんのラベル。

 実は、ケースに入れて先生宅へ持ち帰るまで、何年製作というのは聞いてなくて、そういえばとラベルを見てびっくりw 3番のドイツのはその場で製作年を聞いてたのに、なぜだったんでしょうか。これ製作年じゃないよね? とDと言い合って、k先生に訊いたら、いや、そうじゃない? そのくらいの感じだよ、と言われ。そうなんかぁぁぁ!

 ちなみに、今気付きましたが、左端にNo.62と書いてあるので、ヴァリエさんの62番目の作品だったんでしょうか? なぜにレディースサイズに作ったのか、この120年間何人の、どんな人たちがこの楽器を使っていたのか、楽器とお話ができたら訊いてみたいことがたくさんあります。

*1:私は今回、帰りに2挺になると大変なので、楽器を持たずに行きました。スズちゃんもいずれ日本で調整してもらうことがあるかもしれませんが、それはまたいつかってことで

*2:厳密には、Dのほうがピアノがかなり弾けて絶対音感あり、バヨ歴は私よりちょっと短いけど、譜読みや音程の良さではかなり上、でもDの先生はあまり細かい指導を行わないタイプのかただそうで、ボウイングにまだまだわからないところありとかで、単純に「同じ」と言っていいかはわかりませんが、まあ先生から見たら同じくらいかと

*3:もう少しちゃんと調べたところ、1848年アヴィニョン生まれ。1886年ル・アーヴルで楽器の販売と修理商として独立し、1900年にルーアンに移住。1929年没。だそうです

*4:ネックを入れない本体のみの上下の長さ

*5:その昔、スズちゃんを手に入れたとき私が工房さんに持ち込んだチェコの楽器は、スズちゃんよりかな~~~り重かった(手に持った感覚で倍くらいある気がした)ので、スズちゃんも軽いと思ってましたが、ヴァリエさんはさらに軽い!

*6:k先生には、それならBAMはどう?とお薦めされました。先生が20年来使ってて今も現役で、とのことでしたが、お値段もそれなりだったので、今回はマックで。これがもし早めにダメになったりしたら次はBAMにしようと思います

*7:ケースに入れて湿度を一定に保つという布状のもの

*8:昔ギターでそれをやって、しかも中途半端な入れ方してたので傷をつけた苦い経験あり