気まぐれエッセイ@メキシコ

不定期に適当な文章をつづっていきます(現在バヨ中心)

30年越しのオペラ『ラ・トラヴィアータ』

 若いころに夢中になったものって、歳取ってからでもやっぱり好きな気持ちは変わらないものですよね。私の場合、まあいろいろありますけど、高校生のころにオペラにどっぷりハマりました。当時は日本ではオペラなんて(しかも田舎に住んでたし)めったにないし、やってても大阪とか遠いところで帰りが遅くなるから行かせてもらえないし、そもそもチケット高すぎて買えませんでした。レコードプレイヤーも持ってなかったので、ラジオでやってるオペラをカセットテープに必死に録音して、それを繰り返し聞く日々。オペラに関する情報も、わずかな雑誌や本からかき集める感じでした。

 そのころに買って暗記するほど読んだオペラ関係の本を、去年日本に行ったとき回収してきて、何十年ぶりかで読み返し、うおおおおお!とオペラ熱再発したりしてました。

 日本の高校と大学時代、そんな感じでオペラに夢中のままドイツに留学したので、ドイツではもちろん劇場でオペラやってたら必ず見に行きました。天井桟敷の学生割引で、めっちゃ安い。まあミュンヘンやベルリンやウィーンじゃないですから、そんな大した歌手はいないですが、生オペラの体験というのは、それはそれで楽しいです。

 

 ところで、話は飛びますが、今のダンナとドイツで知り合って付き合ってたころ、映画『プリティ・ウーマン』を一緒に見ました。二人とも記憶が定かでないんですが、映画館じゃなかったのは確かなので、たぶんテレビで放映されていたのを見たんじゃないかな。1990年の映画ですから、その1,2年後、ダンナ(当時彼氏)が卒論を書くためにドイツに戻ってきて滞在していたころかなあ。

 ジュリア・ロバーツリチャード・ギア主役のラブコメですが、なかなか面白いです。あらすじはウィキにて。

ja.wikipedia.org

 このなかで、リッチなリチャード・ギアが娼婦のジュリア・ロバーツを連れて、ニューヨーク(だったと思う)*1までプライベートジェット機で往復してオペラを見に行くシーンがあります。ジュリアは初めての観劇ですが、すっかり引き込まれ、終わってからそばに座っていた上品な老婦人に「すばらしい出来でしたね」と声をかけられて、「感激しておしっこもらしちゃったわ」と答え、相手が目を白黒させる、というところもあり。

 オペラの舞台は断片的に出てくるだけですが、ヴェルディの『ラ・トラヴィアータ(椿姫)』です。ところが、映画を見て数日後に、ダンナ(当時彼氏)がメキシコ人の友人と話していてこの映画の話になり、その友人(ダンナによると音楽に造詣が深い)が、あのオペラは『蝶々夫人』だったと言っていたと。

 いやいやいやいや、あの映画の話の流れで、ジュリアが蝶々夫人に涙流すほど感激するわけがないでしょうが!!! いや、そりゃプッチーニのオペラはすばらしいと思いますよ? でも、男に捨てられて、それでもひたすら信じて待ち続ける蝶々夫人のストーリー、どう考えてもここにはマッチしませんて。

 しかしそのあと、ダンナに『ラ・トラヴィアータ』を聞かせるチャンスはないまま、ダンナはメキシコに帰国。私はドイツに残って再びの遠距離恋愛が始まりました(あのころは遠距離恋愛なんて単語、まだなかったか、あっても私は知らなかったけど)。そんなある日、なんか本買いたいな~何か面白そうなのないかな~、それともCDにしようかな~、と迷いながら本屋をうろついていたら、誰かが店員さんに「『プリティ・ウーマン』の小説版ってないですか」と訊いているのが耳に入り。私はその足で本屋を出て、『ラ・トラヴィアータ』の全曲盤CDを買っちゃいました。

 これです。主役3人は、ヴィオレッタがイレアナ・コトルバス、アルフレードプラシド・ドミンゴアルフレードのお父ちゃんがシェリル・ミルンズ。指揮はカルロス・クライバー。当時のメンバーとしては「間違いない」というレベル。

 あ、今CD引っ張り出してきたら、レシートありました。1992年11月9日、65マルク(6500円ほど、2枚組なので高いけどそんなもん、私としては当時けっこう思い切った買い物でしたが、バイトもしてたので、たまに贅沢してました)。なぜか5マルクの割引がついて60マルクでしたね。

 で、これがね、もうすんばらしかった! CDだから音源しかなく、舞台とか演出とかの映像はないんですが、当時は私にはそれが当たり前で、想像で補ってました。CDにはちゃんとリブレットがついてて、イタリア語とドイツ語の対訳なので、何を歌っているかはちゃんとわかります。

 ストーリーは、たいていのオペラと同じで、それだけ抜き出すとアホみたいなメロドラマだったりするんですが、そこにヴェルディの音楽がつくだけで、なんでこんなに天にも昇るような芸術になるんでしょうか、音楽って不思議です。

 当時の私、このCDを朝から晩まで聞きまくりました。カセットテープじゃなくてCDだから、すり減る心配もないし。昼ご飯は学食に行って、友人たちと合流して一緒に食べるんですが、食後のコーヒーを飲んでいても、私はもう早く部屋に帰ってオペラ聞きたくてうずうず。友人たちに笑われるくらいハマってました。あ、大学の授業とかゼミはちゃんと出てましたけどね。たぶん、あのころ総計で100回か200回は聞いたと思います。

 あ~、これをダンナ(当時彼氏)にも聞かせてやりたい! メキシコ行ったら、ぜったい一緒に聞こう! と思ってましたが、1995年にメキシコに移住したときは、ダンナ(メキシコに来てすぐに結婚したので、やっと本当にダンナ)は仕事やなんやで忙しくて、オペラ聞いてる暇も気持ちの余裕もありませんでした。そのうちそのうち、と言いつつ数年が過ぎて、私も諦めの境地に至り、それきりに。

 それから30年ほども経った現在、ダンナはとうとう退職し、悠々自適?の老後生活が始まったわけです。で、こないだ、30年前に聞こうって言ってたよね~、という話をしたら、ダンナがいちおうその気になってくれた様子。しかし時代は移り変わってます。CDもいいけど、今ならYoutubeで舞台付きで、できれば字幕付きのがあればもっといいよな。そうでないと、私がいちいち通訳するのも興覚めだし。音源だけだと、ぜったいダンナ途中で飽きるし。
 と探しました。カルロス・クライバーのがあれば、と思ったんですが、さすがにそう都合よくはいかない。字幕付き(スペイン語がいいけど、英語でも何とか)で、全曲盤で、あんまり古くなくて(音質画質が悪いと長時間は辛いので)、演出がオーソドックスなもの(あんまり奇抜だと最初に見るものとしてはちょっとね)……と探して、でもなかなか私が知ってる時代の歌手でってのはないなあ。仕方ない、これならどうだっ!とまあまあ条件に合致しそうに思えたのが、こちら。

www.youtube.com  指揮者ジェームズ・コンロン(知らない)ヴィオレッタ、レネ・フレミング(名前聞いたことはあるけど、声は知らない、私が知ってる時代より後の人)アルフレード、ローランド・ヴィリャソン(知らない)アルフレード父、レナート・ブルゾン(知ってる知ってる! 私がオペラハマってた時代に最盛期だったバリトン歌手!)。という感じですが、とりあえず画像きれいそうだし、スペイン語の字幕ついてるし。

 というわけで、テレビでYouTube見られるので、今日、ダンナと一緒に見ました(もはや「聞きました」の時代じゃないのだ……)。

 結果は、大成功。ダンナ、2時間ちゃんと最後まで見ました(途中で休憩はしました、私もカメたちのご飯とかしなきゃいけなかったし)。まあオペラの歌詞だけを追いかけても、バックグラウンドとか知らないとわからないこともあるので(ヴィオレッタがコルティザン(高級娼婦)で、金持ち男を集めてパーティしてるとか、でもそういう生活が祟って体壊してるとか)、ちょっとは合間に解説もして、そうすると、このあとどうなるんだ?と先へ先へと知りたがるダンナw まあオペラって長々と歌う分、展開遅いですからね。

 実に30年越しのオペラ鑑賞の夢???が叶いましたw

 

 ところでびっくりしたのが、このレネ・フレミング。調べたらアメリカ人歌手らしいですが、すごい! コトルバスよりいいかも! まあコトルバスはそもそもがコロラトゥーラじゃないので比べるのも酷ではありますが(技量以外で聞かせる分すごいとも言える)、このフレミング、コロラトゥーラもすばらしいけど、それ以外の声の表現力とかバリエーションがすごいんですよね。こんな歌手がいたとは。

 ただし、テノール歌手のヴィリャソンは……調べたらメキシコ人だった(フランス在住で市民権も取ってるらしいが)、けど、ごめん、ドミンゴと比べたらぜんぜんだわ。まあドミンゴと比べるのもこれまた酷ではあると思いますがね……。

 レナート・ブルゾンは……うわあああ、ってくらい歳取ってた。当たり前か。このとき(2006年録画)70歳だったらしいから(現在は88歳、さすがにもう歌ってないと思う。今日亡くなった小澤征爾も88歳だったなあ)。それでもしっかり歌えて、かつての美声も衰えてませんでした。

 フレミングとブルゾンに、テノールドミンゴ、という組み合わせの『ラ・トラヴィアータ』があったらなあ、もう完璧なんだけどなあ。

 

 ちなみに、コトルバスとドミンゴの部分映像ありました。

www.youtube.com  第二幕のラスト、振られたと思ったアルフレードが、ヴィオレッタに札束叩きつけるシーンですね。メトロポリタン劇場で、ジェームズ・レヴァイン指揮、アルフレード父もミルンズじゃないです。うん、コトルバス、やっぱこの人はこの人でチャーミングなヴィオレッタだわ。
(フレミング、他にも聞いてみようと思い、検索してドヴォルザーク『ルサルカ』のアリア『月によせる歌 Song to the Moon』を聞いてみたら……む~、そうでもないかも。フレデリカ・フォン・シュターデ(私のオペラどっぷり時代全盛期の歌手)が同じ曲歌ってるのがあって聞き比べたら、フォン・シュターデのほうが普通に好きだったわ~。フレミングはトラヴィアータがはまり役だったのかな?)

 

 オペラ見たあと、ダンナといろいろ話してたんですが、私は(ダンナがドイツにいないころに)『ラ・トラヴィアータ』を劇場で見たこともあって、そのときのアルフレード父のバリトン歌手が、うまいんだけど、もんのすごくねっとりねばねばな歌い方をする人でした(これをドイツ語やスペイン語で表現してもダンナにはうまく伝わりませんでしたが)。そうでなくともアルフレード父って、ヴィオレッタを説得し、息子を説得し、というシーンが続く第二幕で、説得力が必要な役割ではあるんだけども……これはちょっとなあ……しつこい、しつこすぎる、と思ってややうんざりしながら聞いていたら、同じ思いの人がいたらしく、アリアのど真ん中なのに、いきなり拍手! いやびっくりしました。でも笑っちゃった。もちろん、だからって歌手が歌うのやめるわけにもいかないので、そのまま続きましたけどね。

 ダンナは一度だけ、私と一緒にドイツの劇場でオペラを見た、と言うんですが、それが何だったのかは覚えてないそうですw ただ、休憩時間にみんながホールでワイン飲みまくってたことだけ鮮明に覚えてるってw まあ私たちは飲まなかったけどね(ああいうのって高いし)。見に行ったの、『カルメン』だったような気がするんですが、私は何しろ当時片っ端から見に行ってたので、ダンナと行ったのが何だったか、印象に残ってません。内容に関する話をしなかったんだろうなあ、してたらたぶん覚えてるから。

 

 さて、これで『プリティ・ウーマン』のジュリア・ロバーツがおもらしするほど(いや、これは修辞ですが)感動したのはなぜか、ようやく理解した!と言うダンナ。こうなったら『プリティ・ウーマン』ももう一度見てみたいよねえ。と探したら、ネットフリックスにありました。近日中に見てみよう、ということになってます。

 ところで、この『プリティ・ウーマン』からさらに派生して思い出すのが、ボリウッド映画の『カル・ホ・ナー・ホ Kal Ho Naa Ho』です。これは私がそもそもボリウッド映画にハマるきっかけになった最初の映画で、作中にプリティ・ウーマンの曲が使われてます。

www.youtube.com 眼鏡の女の子(プリティ・ズィンダ)は家庭にいろいろと問題があって、いつも眉間にしわを立てて恋愛なんかに興味ないという子。踊ってるシャールク・カーンボリウッド映画のキングと言われる大俳優)は、そんな彼女の心をほぐそうと、あの手この手で誘いをかけ、このダンスもその一環。彼女の妹は事情があって祖母に無視され続けてすっかり委縮していて、弟は足が悪くて松葉杖が手放せない、そんな子供たちも一緒に踊ってます。

 ストーリーとしては、プリティ・ウーマンよりトラヴィアータかな? でもこのダンスシーンは見てるだけで元気が出るので大好きです。

 

 さて、小澤征爾が亡くなったとのことで、これまたオペラの『エレクトラ』ですが、私のイチオシのソプラノ歌手ベーレンスのタイトルロールで小澤指揮のCDを持っているので、追悼にまた久し振りに聞こうと思ってます。

 なんだかんだでオペラ熱が再発しそうな日々が続いております。いつか、オケでオペラ演奏とかできる日が……来るかなあ???

*1:後日映画を見たところ、ダンナもニューヨークだと思ってたと言ってましたが、サンフランシスコでした。映画の舞台はロサンゼルスなので、ニューヨークはさすがに遠すぎるか……