気まぐれエッセイ@メキシコ

不定期に適当な文章をつづっていきます(現在バヨ中心)

猫の遠慮

 うちには7匹の猫がいる。うちに来た順でいうと3匹目の黒猫ハルは、半年ほど野良生活をして、道端でゴミ袋を破いて残飯を食って生き延びていた。そのせいか、先の2匹に比べて発育があまりよくなく小柄で、先住2匹に距離を置き、こっそりと暮らしている。その後やってきた後輩猫たちに対しても、だいぶなじんできた感はあるものの、やはり独立独歩、孤高の猫である。

 猫たちはそれぞれに、私に甘える場所と時間帯というものを住み分けているようで(たまにバッティングはあるが)、ハルの場合それは、ときたまパソコンに向かっている私の手元、そしてほぼ毎晩、私がベッドに入ってすぐと決まっている。

 ダンナはロングスリーパーなので私よりずっと早くにベッドに入っている。現在、うちのベッドは私が寝る側が壁に寄せられているので、私が寝位置に入ると、すでにいびきをかいているダンナの向こう側にあるベッドサイドの段ボール箱(ハルのいちばんのお気に入りの寝場所)から、5秒から10秒くらいで、マットレスにとん!とハルが乗ってくる衝撃が伝わる。暗闇をすかすと、眠っているダンナのお腹をがしがしと踏んづけてこちらへやってくるハルの黒い影が浮かび上がる。

 ちなみに、闇の中でいちばん見えにくいのは、黒猫ではなく(うちにいる柄のなかでは)キジトラだと思う。黒猫は逆にくっきりとシルエットが見えるが、キジトラは溶け込んでしまい、何度踏んづけそうになったことか……。

 さて、ダンナを踏んづけてこちらに来たハルは、私があおむけに寝ていればそのままお腹から胸に乗っかり、ぐるぐると頭を撫でさせる。横向きに寝そべっているときは、肩のあたりを前足でそっと押してあおむけになるよう促す。私が手を浮かせたまま撫でないでいると、そこに頭を押し付け、撫でろと無言の要求。そしてそのうち胸のうえにずっしりと乗ったまましばらく寝ていたりもするが、たいてい5分ほどで、はい本日もどうもありがとうございました、という感じで立ち上がり、ダンナを踏んづけて段ボール箱へと戻っていく。

 この立ち去るタイミングが、お猫さまの満足したときであることもままあるのだが、ハルの場合、どうも私の心を敏感に読んでいる気がする。撫でながら、私がふと違うことに考えふけったり、撫でる手が疲れてきて熱心さを失ったとき、半分寝落ちかけのとき、など。他に気を取られていたときなどは、立ち去るハルを引き留めて、ごめんごめんまだいいよ、と言うと、そうですか? そいじゃもうちょっと、と戻ってくることもある。

 さて、先日、ハルが私の胸に乗って1分くらいで、不意に何か(お腹が空いたとか?)を思い出したらしく、スタっと立って、段ボール箱のほうではなくベッドの足元のほうから降りて部屋を出ていった。私は、そいじゃ、と体を横向きにして寝ていたら、数分で戻ってきた。わかっていたんだけど、どうするかなと思って寝たふりをしていたら、足元のほうから近付く足取りがためらいがちに止まり、それでも寝たふりを続けていたら、そのままダンナを踏んづけて段ボール箱のほうへ戻ってしまった。眠っちゃったら邪魔しちゃいけないとでも思ったのか?

 で、昨晩はベッドに入ってあおむけに寝た。いつもどおりのタイミングで(見えないけど、おそらく、よしよし来たな、と段ボール箱の中で起き上がり、ぬーんと前足を突っ張って伸びでもしてから、ベッドに飛び乗って)こちらへやってくるハル。いつもなら、この段階で私も手をひらひらさせて、おいでおいでの合図をするんだが、昨晩はまたわざと動かずにいた。それでも、ハルは疑う様子なく私の胸に乗ってきた。お座りの体勢から、前足を折って寝そべる形に。それでも動かない私。内心は、どうするかとわくわくしてたんだけどね。

 1秒、2秒。ここでハルは、はっとしたように私の胸から飛び降り、一直線に段ボール箱に戻ってしまった。その素早さと後ろ姿からは、あああ、しまった、もう眠っている飼い主に乗ってしまった!とでもいう焦りがにじみ出ていた気がするのは、飼い主の欲目でしょうか? ごめん、ハル、嘘寝してた、戻ってきてください、ほらなでなでしてあげるから、と懸命に(ダンナ越しに)声をかけたけど、ハルはもう戻ってこなかった……。

 ハル、だましてごめん。こういう意地の悪いことするのはいかにもニンゲンだよね……。と猛省した飼い主でありました。でも、根に持たない(ま、ほとんどの場合)のが猫のいいところ。今朝、ハルのご機嫌をうかがったところ、許してもらえた様子。もう、他人(他猫)の愛を試すようなことはやめよう、極力(←ちょっとはやる気らしい)。

 

 我が家の猫たちのなかで、遠慮深さナンバーワン:ハル

 

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